「戦闘訓練でさ、斬りかかるときとか、避けるときとかに、あんまりよくない癖がついたら、セントラルでは、ぶっ倒れるまで正しい型を何度も練習するんだ」
「……」
「頭で覚えても、体が動かないと意味がない。だから、体に覚え込ませる」
机のライトを灯した部屋で、壁に大きく2人の影が伸びる。
ベッドに並んで腰かけた状態で、クラインが前を見て話し続けた。
今まで、自分が何度も魘されていたことも。
抱き枕みたいになっていたのは、魘されていた自分の背をさすったりしていたのがきっかけだったということも。
気付かないところでまで、ずっとクラインに助けられていたことを知って、また泣きそうになる自分が嫌になる。
早く、強くなりたい…クラインのように
「リガンドの体が、あいつらにされたことを忘れるまで、俺がリガンドを抱くよ」
?
疑問符、というよりは、
言葉は理解したけど頭がそれを受け取ることを拒絶したような
「俺、男より女の子の方が好きだけど、リガンドならいけると思う」
クラインが自分に向き直る。両肩にぽん、と手を置かれる。
「どう?」
「どう……って……」
例えとして出した怪我の話に拠るなら、怪我を必要以上に恐れた回避行動等を直すために正しい動きを何度も繰り返すように、身体接触を必要以上に恐れないよう、何らかの努力をすることになるけど…
「俺とするの、嫌?」
話が少しズレてるような…
「…嫌……じゃない、けど、……そ、そこまでしなくても」
真正面に見えるクラインの表情が、真面目なのか、とぼけてるのかもわからない。
元からそういう顔といえば、そうなのだけど。少し……その、ちょっとぼんやりした。
「でも、原因はそこだろ?」
原因は……たしかにそこだけども。
言葉にしなかったのに、クラインが「そうだろう」とばかりに頷いてくる。
「じゃあ」
両肩を掴まれ、少し引き寄せられる。
「えっ、待っ…」
「待ってもいいけど、いつまで?明日?明後日?」
図書室で読んだ本に書いてあった気がする。
交渉事で、「YES、NO」ではなく、YESの場合の選択肢だけを複数提示すると、その中から選ばなければならないような気がして、NOが選ばれにくくなるって…
「明日にしてもいいけど、先送りにした分、リガンドは気にして疲れるだけだから、今しておいた方がいいと思う」
ちがう、クラインはそんな交渉テクニックを使ってるんじゃない、
YESしか想定していない。
辛うじて残った冷静さで、いくつか断り文句を考えてから、シミュレーションしてみる。 その中で、クラインにそれらをすべて脈絡なく潰され、リガンドは諦めた。
「今で…お願いします」
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※性的な表現がやや多めです。読み飛ばしても大丈夫なエピソード。