第2.5話「実技最優秀者」

そいつの名前は忘れた。
士官学校に編入して翌々日だったか、「実力を確かめるための練習試合」が行われた。 
対戦相手は攻撃官コースの候補生で、1年から4年まで1人ずつ。

こっちはあと少しでセントラルを卒業して、実戦に出るところだったんだ。
自慢するつもりはないけど、同期の中では一番強かったからな、俺。 
だから、訓練途中の候補生なんかと練習試合で負ける気はしなかったし、実際に1年や2年は相手にならなかった。 
……3年は、まぁ、それなりに強かったけど。特警の平均くらいか。 
でも、攻撃官コースの最終学年……4年の対戦相手が現れた時は、少しだけ空気が変わった。1年から3年までは、どうやら「学年平均」を選出していたらしい。4年もそれで選出していたらしいが、俺の勝ちっぷりを見て、教師がぼそぼそ話し合って、控えの候補生が登場した。

「特殊技能攻撃官コース実技最優秀者」 

そんな噛みそうな長ったらしい肩書を背負って自分の前に立ち、一礼したのは、特に印象の残らない普通の顔と、こげ茶の髪、灰色の目の候補生だった。年は1つ上だが、体格は自分とそんなに変わらない。
確かに優秀なのだろう、表情は穏やかなのに、威圧してきている。隙がない。 

どう来るか……読みにくい。 

さっきまでは構えることなく試合に挑んで、相手が斬り込んで来てから構えていたが、今回は開始前から構える。 
練習用のサーベルを片手で上段に構え、刃先を左の手で引くように掴んだ。 
「へぇ、変わった構えをするんだな、特警は皆そうなのか?」 
「……」 
答えずに、構えを固定する。 
「始め!」 
合図と同時に刃を手離し、サーベルを振りかざし加速して突っ込む。 
相手の動きが読めないなら、相手より早く動けばいい。 

流石にかわされ、後ろから斬りこまれたが、振り返らずにサーベルを後ろに払い、相手の刃を跳ね返しながら反回転して体勢を整える。 
「…ほ!後ろに目があるみたいだな!」 
跳ね返した刃の感触があまりに軽かった。衝撃を流されたか。 
手首の使い方がうまい……いや、恐らく、全身のバランス調整がうまい。 

再び斬りかかり、刃と刃が触れるが、その接点が流される。力の流れが……相手に有利……!

「止め!」 

首筋に刃を添えられた形で対戦が終了する。開始からものの数秒で。 
攻撃官よりも、特警は、そのスピードと力、持久力で上回る……筈だろう?! 
「……これが攻撃官の戦い方だ、面白いだろう?」
「………」 
面白い、といえばそうかもしれない、でも今はすっげー悔しい。 
嘘だろ?負けた?速すぎて、見えていたのに、どう動けばよかったのか。
さっきの動きはどうやればできる? 

「お前のその特警の戦い方に加えれば、最強かもな」 
「……そうかもな」 
話をする気分じゃないが負けて無視するのも、悔しいのが丸分かりで、そっちのほうが悔しいから一応の返事をする。 
肩に手を置かれた。特徴のない顔が近付く。 
気安く触んなよと言いたいが、負けたし、おとなしくしておく。 
「特警の戦い方には興味があるんだ、自主練の相手ならいつでも付き合うよ、トラスト」 
「…考えておく」 
俺はトラストじゃない、トラストって呼ぶな、とも言いたかったが、それも我慢した。 
対戦は終わった、今日の予定はこれでおしまいだ。 
教師がそいつに声をかけた隙に、背を向けてさっさと訓練場を出る。 

自主練の相手……そうか、攻撃官の候補生の中から自主練の相手を見つければいいんだ。その戦い方を間近に見て、できるだけ早く習得したい。

でも、お前は嫌だ。 
なんか、掴みどころのないタイミングが、気に食わない。

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