第40話 雑談

「まさに鉄壁……『最後の砦』!」 
自分に絡みついたクラインがそう叫ぶ。
最後の砦、というのは防衛軍における最高位官職、制御官の異名だったなとリガンドはぼんやり思う。

「俺のリサーチによると、コース別の美形率はあんまり変わらないんだけど、ナンパ成功率がものすごく違う……!」 
「どう違うんだ」 
聞く気があるのか怪しい、気のない声で、ハインツが間の手を入れる。
課題を早めに終えたクラインと、ハインツも部屋に留まっての3人で「ごろごろ」をしながら目的なく話を始めたところ、話題はクラインのナンパ話になった。 

「まず、リガンドが教えてくれた通り、俺は攻撃官コースには結構モテる!」 
「割合は?」 
「18人中3人!」
「そんなに声かけたの……」 
あの高らかな宣言からまだ5日だ。 
一体どんなタイミングでどんな風に声をかけてるんだろう… 
「いけそうと思った18人中の3人だから、結構な勝率だろ?」
「う、うーん……?」 
「待て、その3人とはどこまでいったんだ?」 
「セックス。指揮官コースになると少し下がる!11人中の1人だ!まぁこれはこんなものだろうと思う」
さらっと出た4文字の単語に、一秒ほど、リガンドとハインツが同時に思考を止める。
「けど!制御官コース!2人中の0人!!!!」 
クラインは天井に叫び、リガンドを抱きしめたままベッドに倒れ込んだ。 
リガンドは倒れた視界で、ハインツが腕組みをしてクッションにもたれたまま天井を仰ぎ、少し眉間にしわを寄せて目を閉じているのを見た。

「……制御官コースは、いけそうと思える人数自体が少ないんだね」
倒れたままとりあえずの感想を述べる。 
「そう!そういうこと!2人声かけたのもちょっとヤケだった!ハインツ!なんで制御官コースはあんなに話しかけにくいの?!」
「……ん、…制御官は攻撃を制御する……攻撃行動に対して抑制的、否定的な思考タイプが多い。これは推測だが、クラインは『戦う指揮官』だから生来的に警戒されやすいのかもな」 
自分に質問が飛んでくると思っていなかったのか、珍しくハインツの応答が遅れた。 
そういえば、こんな風に3人で話をするのは今夜が初めてかもしれない、と身動きがとれないままリガンドは面白さを覚える。
「あー、そういうこと?惜しいな、声はかけられなかったけど、すっごい可愛い子がいたのに」 
「どんな?」 
なんとなく興味を抱いて、質問してみる。 
「あっ、リガンドも興味ある?金髪のふわっふわの…これくらいの長さで、リガンドより身長10cmは低い…すっごい美少女!だけどものすごく睨まれたし、声かける隙無し!」 
「……学年は?」 
ハインツも気になったのか、質問を追加する。 
「3年」
「…多分、それは制御官コース第3学年の学年首席、リスティ・ティセラだ」
「ハインツも知ってるの?かわいいよね!かなり!」 
クラインが自分をようやく解放して起き上がる。 
「ハインツは何で知ってるの?」 
遅れて起き上がってリガンドも尋ねてみる。ハインツの好みはさっぱりわからないし、クライン以外のことはどうでもいいと思っていそうだと思っていたので、ごく単純に興味を持って。 
クラインとリガンドの好奇心に、ハインツがあからさまに面倒臭そうな表情を見せる。
「各コース、各学年の首席を集めて定期的に意見交換会が開催されている」 
「あ~、賢い奴の集まりか~」 
「へぇ、そんなのあるんだ。………何?」 
説明してから、腕組みをしたままのハインツがこちらをじっと見てくるのに気付く。
「そうだな、リガンドと同じ系統の顔だな」 
「は?」 
「…そうかも!なるほど!」 
ハインツにつられてクラインも自分の顔をじっと見てから手を打つ。
「同じ系統…」 
「今度一緒に見に行く?なんなら、一緒にナンパする?」 
「え……それは…止めておく」 
見てみたい気はするけど、と。それは心の中に留めて、リガンドはクッションにもたれこんだ。
えー、なんで?と自分に食い下がるクラインを、攻撃官コースと制御官コースの相性はもっと悪いんじゃないかとハインツが適当に嗜めるのを見て、笑う。 

学年もコースも違う自分たちが、こんな風に話せることは、きっとすごく貴重だろう。 

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