解説>Being第21話「逃亡」

(※↑彼は、小説「Trust」に登場しているフィリップです)
がん細胞には色々ありますが、
周囲の細胞に構わずひたすら増殖するのが共通の特徴です。

がん細胞を漫画でどう表現しようかと考えて、
今回は「ファンタジー」として読みやすくするために「異常な回復力」に留めました。

増殖を描くとすると、攻撃官や指揮官も増殖しなきゃ設定が矛盾してしまうので(笑)

細胞の増殖は、
一部例外を除いて「自分がダメになるとき交替要員として増殖する」程度です。

増殖は厳密にコントロールされています。

例外は、生殖細胞、B細胞、T細胞など、旺盛な増殖が必須の細胞です。

(B細胞とT細胞は、ひとつひとつの細胞が成長の過程で「独自性」を手に入れて、 「運命の敵」に出会ったらクローン増殖して攻撃を開始します)

これは、がん細胞が、免疫細胞の動きを止めてしまうことを表現しています。
ノーベル賞で話題になったPD-L1もその一つです。
細胞傷害性T細胞(作中では「攻撃官」)の表面にあるブレーキスイッチPD-1と、がん細胞の表面にあるPD-L1が結合すると、細胞傷害性T細胞が不活性な状態になるという……
なんでそんなブレーキスイッチがそもそも細胞傷害性T細胞にあるかというと、攻撃モードになった細胞傷害性T細胞ってすごいんですよ、「敵」とみなした細胞は皆殺しできる能力もってるんです。だから、ブレーキシステムを備えてるんです。いや~すごいですね~さすがは我が推し。


NK細胞(作中では特警)は、免疫記憶を持たないという特徴をこめてます(笑)

マトリクスメタロプロテアーゼ(MMP)というタンパク質分解酵素によって、
がん細胞は他の組織へ浸潤していく……らしいです。
まだ勉強中なので説明はふわっとしておきます。

作中では、逃走のために壁に穴を開けるという表現にしていますが、
現実にがん細胞が免疫細胞の攻撃から逃れるために使うというものではないと思います。

Beingは「細胞視点で見た人体」という世界をファンタジー風に描いているので、
「がん」をそのまま呼ぶのでは、ちょっと違うなと思い、
名前の由来を調べて

がん=キャンサー=蟹=蟹のように掴む(カルキノス)ということで、
「カルキノス」にしました。

ステムの周囲に手のようなモノが見えるのもそれを表現しています(微妙な感じになっちゃったけど……)

1951年に子宮頸がんで亡くなった女性から採取された細胞(Hela細胞と命名)はまだ増殖を続けています。
すごいですよね。


どうも、腫瘍=新生物というわけではないのでややこしいです。
読める範囲で医学書に手を出してるんですが、
この辺の用語の使い分けが本によって微妙に違わない???

なんでneoplasmを「新生物」って訳した???

直訳だと「新しく形作られるもの」。
……まぁ、がん細胞の増殖で膨れ上がっていくのは、
人体としては「予定外」の建設なので。

ファンタジーでがんをラスボス的に表現するのにとり込んで
「新しい世界を作る!」みたいにしてみました。


NK細胞(作中では特警)にとっては、「がん細胞」退治は日常茶飯事らしいです。
日々、なんか不具合の起きた細胞は生じて、
見つけ次第、排除してるらしいです。

ちなみに、がん細胞が1個できたからってそれがすぐ「がん」になるわけではありません。
一定以上の量にならないと検査でも見つけられません。


がん細胞というより「がん」という組織は脆く、不定形です。
それを表現するのに今回は一人のキャラクターにその特徴を設定しました。
あと、がん細胞は、免疫細胞からの攻撃を逃れるためか、
ラッフリング(細胞膜を波打ちさせる)したりもするんですが、
ラッフリング自体は他の細胞もしてるので、がん細胞の特徴というわけではないです。 (細胞傷害性T細胞やNK細胞によるがん細胞への攻撃は、しっかりがっつりと密着結合してから毒素を確実に打ち込む!というものです。表面がゆらゆらしてたら密着しにくいということで)

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