解説>Being第22話「世界」

P1 使羽が届かない距離

「使羽」とは、サイトカインをファンタジー風に表現したものです。
サイトカインは「近くの細胞間で作用する」ことが多いため、
「届く範囲に限界がある」としました。
作中では「鳥のような形」で、
メッセージを送る・簡易攻撃をする・攻撃力を強化する・攻撃を抑制するといった使い方をしています。

首謀者の行方を捜すのに、
物語の都合上、少々2人には遠くまで行ってもらいました。

★サイトカイン(cytokine)とは?
:cyto(細胞)+kine(作動因子※)の造語。
※kinein:「動く」(ギリシア語)に由来する
細胞が分泌する低分子のタンパク質で生理活性物質の総称。
細胞間の相互作用に関与する。

<サイトカインの種類>
①ケモカイン(Chemokine):白血球(免疫細胞)をケモカインの濃度の濃い方へ遊走させる(普段は血流等の流れに乗っている)。

②インターフェロン(Interferon;IFN):感染等に対応するために分泌される糖タンパク質※。(※タンパク質を構成するアミノ酸の一部に糖鎖が結合したもの)

③インターロイキン(Interleukin;IL)※見つかった順でナンバリング:リンパ球等が分泌するペプチド・タンパク質。免疫作用を誘導する。

④腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor;TNF):その名の通り、腫瘍を壊死させる機能を持つ。

P6


この場面を免疫学っぽく解説すると、
細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)が標的細胞に結合して細胞膜をパーフォリンで貫通し、グランザイムを注入してアポトーシス誘導している場面です。

アポトーシスは、周囲に細胞の中身をまき散らすことのない綺麗な細胞死(細胞の自殺)です。
他方、ネクローシスは、損傷等で細胞が死ぬことで、周囲に色々まき散らしてしまいます。
(好中球にはネトーシスという自爆攻撃の死もあります)

Beingはファンタジー漫画なので、
「サーベルで斬って、サーベル経由で崩壊物質を送り込んで、対象を塵にする(消し去ってキレイキレイ)」という表現にしています。

P7「無限に再生を繰り返すことができる」

がん化した細胞は、無秩序に増殖を繰り返すのが特徴の1つです。

NK細胞も細胞傷害性T細胞も、標的細胞の殺傷方法はほぼ同じで、
標的細胞に強く結合して、細胞膜を貫通し、毒素をすべて送り込みます。

NK細胞の場合は、それでいったん攻撃終了となりますが、
細胞傷害性T細胞は、標的細胞にすべての毒素を送り込んだ後にまたすぐに毒素(顆粒)を追加で作り、次の標的細胞へと向かいます。

こういった持久力(?)を表現したくて、作中でリガンドにはがんばってもらうことになりました。ごめんよ……

P10


がん化した細胞は、無秩序に増殖し、そのための栄養を周囲から奪います。

これ、元ネタをどこで見たか忘れてしまったんですよね……
十年以上前にNHKスペシャルかネット動画で、
「がん細胞に攻撃をしかけるNK細胞が力不足で逆にがん細胞に取り込まれてしまう」と紹介されていて驚いて、それでこのエピソードが生まれたんですが、
その後、きちんとした医療・医学系書籍で確認しても、
「がん細胞がエンドサイトーシス等で他の細胞を取り込む」といった説明を見つけられず。ガセネタだったのか…

P14「オートクライン」

autocrine(自己分泌)のことです。オートクリンとも。
自分で作った分泌物が自分に作用する。

作中では「自己強化」と表現してみました。
ちなみに、クラインの名前の由来の1つでもあります。
クラインのモデルである「NKT細胞」はオートクラインすると免疫学の教科書に書いてあったので。

P15


免疫学はまったく関係なく、物語としての補足説明。
この場面でのクラインの飛び込むフォームと、
P3でのリガンドのフォームはほぼ同じです。

小説「Trust」で紹介しているエピソードなんですが、
クラインとリガンドは士官学校時代に自主練をしていたので、
ふたりの戦い方は息ぴったりの基本そっくりで、
身体能力の高いクラインは高め、リガンドは低めの攻撃が得意です。

P18「そんなこと考えたこともない」

考えたことないんかーい!と読み手の方に思われちゃったかもしれない……
普通の漫画ならここで「名台詞」出てくる流れですよね。
申し訳ない、
彼らのモデルは「免疫細胞」で、
この物語の舞台は「人体をファンタジー変換した世界」なので……

標的だと認識したら即攻撃なんですよ。考えない、迷わない。

でもクラインは何度か本編で迷ってる場面あるのでは?と覚えてる方がいたらすごい。すごい嬉しい。

それはクラインのモデルが「NKT細胞」で「制御」の能力も持っているため、
「攻撃に対して抑制的、同胞(がん細胞含む)に対する攻撃にも抑制的」というのを表現したかったからです。

あと、NKT細胞はNK細胞の能力も持ってるので、
NK細胞は「天然、ストレスに弱い」というキャラ設定にしているため、
クラインは「考えた方がいいかもしれないけど考えたくない」という思考でもあります。

P19

繰り返しになりますが、モデルは細胞なので……。
クラインは、リガンドが倒れてるとか認識に入らず、
ともかく眼前の標的を排除することに意識が集中しています。
この辺も、普通の漫画だとあんまりない表現かなと思います。

リガンドが力尽きてどうなったのかは次回ちゃんと描きますのでご安心ください。

あと、今回の話は小説Trustの第36話「世界」に連動した話で、
この後のエピソードも小説ではがっつり書きます。

尚、小説を読まなくても本編の漫画だけで物語は読めるようにしています。

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