第9話「被害」

一度で終わるはずがなかった。

最初の被害の時点で、教師に相談することもなく黙っていれば、都合のいいはけ口として使われ続ける。

「………ッ、…ッ」
今日の自主練は早くに終わったので、消灯時間に間に合うからと、リガンドは自分の部屋に戻っていた。
抱き枕が嫌だからというわけじゃない、課題もあるし、教科書は自分の部屋に置いてあるから…後半だけを言葉にして、クラインを、合流したハインツに任せて。

「声出すなよ……隣に聞こえたらまずいだろ」
リガンドが抵抗しないとわかったからか、1人がリガンドを床に組み敷いて、1人はドアの前で立ち、あとの1人はそれをベッドに腰掛けて、眺めている。
部屋に戻る日は週に2日だったが、いつの間にか3人にそれを気付かれてしまっていた。

「……」
視界が涙でゆがむ。

早く終わってほしい、早く。

抵抗をしなければ、怪我もしないし、進んで脱げば、服も破かれずに済む。自分に覆いかぶさっていた1人が、立ちあがる。それを見て、もう1人が動く。
次が来るのを、リガンドは目を閉じて、耐えた。

────

「どうかした?」
「…えっ、わっ!」
クラインの声が横から聞こえたと思ったら、首を動かす必要もなく間近にクラインの顔が見えて思わず小さく叫ぶ。
実技の自主練を終えて、例によって教師棟のシャワー室に着いたタイミングだった。

「………」
眉根を寄せて、クラインがじっと顔を見てくる。
「な、なに?」
クラインは黙ったまま、まずリガンドの左腕を掴んで何かを確かめて、次に右腕、背中……
「えっ、と、本当に何?」
「……『異常なし』」
「…え?」
「異常なし、だけど、何かあった?」
背中に置かれた手がそのまま上に滑り、首の後ろを支えるように添えられる。

……顔が近い。

「……何か、って」
「俺、なんとなく分かるんだよね。今日の練習中、ずっと、何か怖がってなかった?」

今日の自主練は、夕方の枠だ。だから、この後、クラインたちと夕食を摂って、自分の部屋に戻る日……

「……」
言って、どうなるというわけでもない。むしろ、迷惑をかけるだけじゃないか。
目の奥に痛みが走る。

自主練のバディとは言っても、体格差、実力差があるので、今はまだクラインがハンデをつけての訓練だ。
クラインは自分との自主練から攻撃官の戦い方を学び取っていくと言ってはいるが、本当に自分が彼の役に立っているのか、そして自分は強くなれるのか、自信などあるわけもなかった。
対等に接してくれているけれど、自分がずっと下にいること位、わかる。

話せば、余計に迷惑をかけることになる。

「言って。……それとも、『命令』したほうがいい?」

喉の奥がひきつった。
首の後ろに添えられた手と、左腕を掴む手。
力を込めてはいないけれど、おそらく振りほどこうとしても、自分にはできないと感じる。

言葉はそのほとんどが嗚咽として、リガンドはその命に従った。

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