第5話「早い再会」

自分を助けてくれた少年の正体は、その日の午前に分かった。
2時限目の実技の授業で、教師と共に現れ、教師が彼を紹介した。

「彼は、トラスト・クライン・ニールセン。特殊前線指揮官の候補生だ」

聞いたことがない、知ってるか、知らない、そんな声がクラスメイトから聞こえてくる。もちろん、リガンドも初めて聞いた官職名だった。

士官学校サイマスで養成するのは、「制御官」「指揮官」「攻撃官」の三職だ。
誤った攻撃や過剰な攻撃を制御する『世界最後の砦』と称される最高位の制御官、攻撃官の攻撃力を強化し、特殊攻撃を指揮する指揮官、指揮官に従い特殊攻撃を担う攻撃官。

「特殊前線指揮官とは、前線で自らも戦いながら指揮をし、第一防衛と第二防衛の橋渡しを行い、全軍を総力戦に導く指揮官のことだ。攻撃の制御も行う。任官者は少なく、サイマス出身は特に少ないから、授業で説明することはあまりないが…覚えておくように」

そんな長い説明は覚えられないな、とクラインは真面目な顔を演出しながら、胸中で愚痴る。

「彼はセントラルで特殊警備兵の実技訓練をほぼ終了しての編入なので、調整しながら各クラスで実技訓練に参加することになっている。まずは、軽く練習試合をしてもらう。さて、誰と──」
「俺が指名して良い?」

名簿を片手に、対戦相手を定めようとするのをクラインが遮る。
学長が自分に一方的に期待しているのは迷惑なことだが、利用できるものは利用する。
教師たちが自分に対して、思ったより融通を効かせてくれることにクラインは数日で順応していた。

「構わないよ」
何かしら、生来の勘で候補生の能力でも見抜いたのか、そんな期待を込めた目で頷いてくる。

そんな能力は……ないわけではないけど、

「その前列の右から三番目」
リガンドを指さす。
その左手首を一瞥して、特に手当がされていないのを見る。

保健室行けって言ったのに、転んだとでも嘘をつけば理由になるのにな…

練習用のサーベルを構え、対峙する。
綺麗な構えだ。正しい構え、と言うべきか。

現段階のクラインとリガンドの実力差では、クラインがリガンドを制圧するのに10秒もあればおそらく充分だった。実戦可能なレベルのクラインと、入学1年目のリガンド。
だが、何かを確かめるように、クラインは少し長めに、1分程続けて終わらせた。
他のクラス担当教師も見学に来ていて、ぼそぼそと言葉を交わし合う。

クラインの戦い方、つまり特殊警備兵の戦い方を実際に見るのは初めての者が多い。

「どうだったね」
練習試合を終えて戻ってきたクラインに教師が期待を込めた目で尋ねる。
「綺麗な戦い方をする。左手首を少し痛めてるから手当てしてやって」

教師が頷き、補助者に指示を飛ばし、間もなくリガンドが背を押されるようにその場から連れ出された。

「君が彼を一目で見抜いたのは…その、『勘』かね」
「……」
見抜くも何も、顔が一番いいだろ。とも言えず、半目で見返す。

これは、ハインツに言われたのだが、
「いい返しが浮かばないときは黙っていればいい」

「俺、馬鹿だから他の奴に馬鹿にされそう」とこぼしたときに励まして教えてくれた方法だ。

学長の秘蔵っ子、特待生、それだけで相手が勝手に過大評価してくれる。

「彼、リガンド・グランは、実技の成績は中の上といったところだが、正しい『型』をスムーズに習得できている。筋がいい。性格がやや消極的なのが気がかりだが、伸びしろは大いにある」
教師が少し興奮して早口で語るのを聞きながら、クラインは黙ってごく軽く頷く。
実際に、剣を重ねて、筋の良さはわかった。
そしておそらく、リガンドは攻撃官の模範的な戦い方を正しく身につけつつある。

「俺はここで、攻撃官の戦い方も知っておけばいいのか?」
「勿論。君は攻撃官の指揮も担うからね」

じゃあ、決まりだな。

顔もいいし。

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