第11話「拒絶」

昨日。リガンドが上級生に呼び出される時間をできるだけ作らないように、放課後、教室まで迎えに行った時だった。

ドアの近くにいた候補生に声をかけ、リガンドを呼んでもらうつもりだったが、既に自分の顔は十分知られているようで、そんなことをせずとも、自分に気付いた一人の候補生が気を効かせてこちらに背を向けていたリガンドの肩を軽く叩いた。

挙動としては僅かなものだったが、その接触にリガンドが身体をこわばらせ、素早く半歩引くのが見えた。

「な~んとなく、まずい気がするんだよな~」

机に腰掛け、そのまま仰け反って、傍らでテキストを開いているハインツの肩に頭を預ける。
「え、あ……」
ハインツが赤面するのを横目で見て、ぐるんと机の上に寝転ぶ。
足で教科書を何冊か蹴り落としてしまったが、構わない。

「ハインツはどう思う?誰かにぽんと肩を叩かれて、身体がすくむの、よくない傾向だと思わない?」
机に寝転び頬杖をつきながらハインツの顔をじっと見る。
えーと、なんていうんだっけ、端正?な顔?
ハインツはモテそうな顔してるから俺ばっかり相手にしてないで他の奴とも遊べばいいのに

「クラインはどう思ってるんだ?」
ハインツの返しに、本題を思い出す。真面目な考え事が続かないのも、生来か。
「ん~~、反応し過ぎかな~と思う。あれじゃ、疲れる」
「過敏になってる、ということか」
「そうそれ、かび…。それ、どうすれば治る?」
指揮官が履修する座学には、部下のメンタル管理も含まれている。ハインツは該当項目を思い出し、クラインのために平易な表現を選ぶ。

「いくつかある。一つは、ショック療法。それよりも過酷な状況に置くことで克服させる。だがこれは─」
「そんなのかわいそうじゃん」
「う、うん、だから、あまり使われてない。一つは、原因と遠ざけてクールダウンさせる……怪我をした時、そこにあまり触れないようにそっとしておくだろう」
「今やってるのそれか~。それしかない?」
「カウンセリング…会話をして、恐怖を和らげる、ゆっくり克服に導く…とか」
わかりやすい表現を選んでいるつもりだが、それでもクラインの目が泳ぐとすぐに別の表現に切り替える。

理解しているのかどうか。クラインは表情を見ればそれがすぐわかるのはいいが、指揮官としては考えがそのまま表情に出るのは望ましくない。
これもゆっくり教えていかないと… でも、自分に対してはそのままでいてほしい……

「んんん~~~~」
レポート用紙や教科書を道連れに、クラインが机から降りる。
「他にもなんかあったような気がするんだけど」
「え」
「セントラルのやり方かも。まぁいいや。そろそろリガンドの今日の授業終わる頃?」

時計を見る。18時前。
それまでに、この課題を終わらせるって言ってなかっただろうか…

ハインツは床に落ちたレポート用紙と教科書を拾って机に再び載せる。
「あー、ごめん、自分で拾うよ」

ドアがノックされた。

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