第12話「追跡」

学長室の扉が開かれ、憮然とした表情でクラインが廊下に出る。少し遅れてハインツも。

「俺、ど~~~しても、あいつ好きになれない」
「…クライン、せめてもう少し部屋から離れてからにしよう」
咄嗟にクラインの上着の裾をつかんで歩き出す。

ハインツとしては、5年コースの単位を2年でクリアしたが身体の成熟度…年齢等の考慮もあって卒業年を早めるわけにもいかないといった状況で、自主的にクラインに勉強を指導していると知った学長が「君たちは出会うべくして出会った」と称えたことに悪い気はしなかった。

クラインは定期的に学長室に呼ばれる。
クライン自身はほとんど何も話さず、教師たちが彼の成績等を報告する。
そこに今回はハインツも同席したわけだ。

「あ~~~~!」

クラインが突然立ち止まり、掴んでいた裾を思わず離す。
「どうした?」
「もう、こんな時間だ、リガンド迎えに行ってくる!」
言い終わるより先に駆けだす。

「待て、部屋に来てるかもしれないから行き違いに…」
慌ててその背中に言葉を投げる

「ハインツは部屋見に行って!」

走る必要はないと思ったが、少し走ってクラインの部屋に入る。

そこには誰もいなかった。

リガンドは時間にも律儀だ。最近、クラインが頻繁に迎えに行くようになったからといって、それは「約束の時間より前」だからで、時間に間に合うようにいつもリガンドは移動を始めていた。

「……嫌な予感、というやつか」
ハインツは再び走り出した。

「ハインツ!」
寮棟でハインツがクラインを見つけるより先に、クラインが呼び、自分の横を一瞬で通り過ぎた。
「あいつら、だ…ッ!」

誰からか情報を得たのだろう、慌てて走る方向を反転し、クラインを追う。
「クライン!待て!落ちつ…」

落ちつくべきはまず自分だ。本気で走るクラインに自分が追いつけるわけがない。
まだ時刻は19時前、グラウンドも教室も、人目が多い。

クラインは何処に向かう?

クラインがリガンドを拾ったのはどこか?「使われてないあっちの建物」と話していた。

───旧実習棟だ。

ハインツは階段を駆け降りた。最短ルートならそこまで遅れはとらない。

「上の学年」の「3人」としか、聞いていない。もし攻撃官コースで、もし最終学年…攻撃官コースは4年制だから第4学年……だとしたら、3対1で下手に喧嘩を売ればクラインが怪我をする可能性もある。

息を切らせて旧実習棟に到着する。
どう探す、6階建てだ。部屋数も、死角も多……

恐らく、間違いなく、ドアを蹴破る音が聞こえた。
声も聞こえた。

階段を駆け上がり、その場所へと向かう。

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