第14話「シャワー室」

「じゃあ俺たちシャワー室行ってくるから、ハインツは手当の準備よろしく」
「わかった」

ずっと、クラインの手が自分の背中を支えるように添えられている。怪我をしているわけでもない、ちゃんと一人で歩ける。

守られていることが不甲斐ないと落ち込むよりも、添えられた手で押されてようやく歩ける自分を、ひたすら自覚していた。

そして、自分たち以外、誰もいないシャワー室に着いて、

……そう、誰もいない。ここは教師棟のシャワー室だから。

不思議なことに、教師棟には教師が居る筈なのに、リガンドは教師棟に出入りをするようになって数か月、未だに内部で教師を見かけることはなかった。ただの一度も。

背からクラインの手が離れ、頭が真っ白になりそうな状態で、立ちつくしていると、クラインが手を伸ばし、リガンドのシャツのボタンを外し始めた。

「あ……」
「ん?」
腕を少し上げる、重い。

「自分で…脱げるから」
わかった、とクラインは少し離れて自分のシャツのボタンを外し始める。クラインもシャワー浴びておくんだ、とその程度の考えは働いた。

「脱げた?じゃあ、洗おう」
「……え?」
服を脱いで、棚に置いた制服を少し整えたところで、クラインに腕を掴まれる。
クラインが、シャワー室の個室にリガンドを引き入れてからドアを閉める。
そこでようやく状況を把握した。

「…ま、待って!自分で」
勢いよくシャワーが頭上から降り注ぐ。ゆっくりと、狭い空間が曇っていく。
「ほんとうに…」
掴まれた腕はほどけないけど、せめて言葉で訴える。
でも今は何か言葉を口にするだけで涙が溢れだす。顔を流れるシャワーで、ごまかせるだろうか。

「駄目。怪我してないかちゃんと見ないといけないし、あと、恥ずかしがってるなら今更だ。最初に、俺もう全部見てる」

涙が止まった。

そういえばそうだった。

「着替えさせる前に体も拭いたし」

思考も止まる。

片手でリガンドの腕をつかんだまま、空いた手でボディソープに手を伸ばす。
茫然としたまま洗われる。
抵抗が途絶えたのを見て、クラインは掴んでいた腕を放して、両手を使ってリガンドの髪まで洗い始めた。

いや、でも、自分で洗えるから……

言いかけて飲み込んだ。
クラインが聞き入れてくれないのは予想できたから。
情けないけど、このままおとなしく洗われた方が早く済むんだろう…。
そう考えていると、不意に両腕を掴まれて、クラインの首の後ろに回され抱きつくような体勢になった。

「……え?」
「滑ると危ないから一応、掴まってて」
クラインの指が滑る先に気付いて、避けようとするけど、身動きが既に封じられている。

「……ま、待って!それは!いいから!」
「ちゃんと中も洗っておいた方がいいよ」
「ほんとうに、……!そこはいいから……ッ!!!」

リガンドは、本気で無駄な抵抗をした。

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