第16話「一戦」

リガンドが合流するのは、授業を終えてからの夕方で、それまでに生じるクラインの空き時間に、ハインツは必ずクラインの傍にいた。第一の目的は、クラインに勉強を教えることではあるが、クラインの集中力はそんなにはもたない。

「できれば3人まとめてシメたい」
「……クライン、先日のを見て分かったと思うが、攻撃官は指揮官に逆らえないんだ」
「1対1で勝っても、あいつら絶対、3対1なら勝てるとか思いそうだし」
「だから、その、シメる必要は無…」
「ヤラれ損だ!いっぺんぶちのめしたい!」
「……」

特警の気性が激しいことは本で読んで知っているが、特警の性質も兼ね備えた特司も同様なのだろうか。
クラインの顔をじっと見返す。一見して、そんなに気性が激しいとも思えない、おっとりとした顔だ。

「ハインツの言ってることは分かる」
ふっと、クラインが椅子におとなしく座り込む。

「この間、ハインツが止めに入ったから、多分、もう、リガンドに手を出してこないだろうとは思う。自棄でも起こさない限り」
「クライン…」
少しだけ安堵した。

「自棄でも起こさない限り!」
「クライン…」
安堵を半分ほど撤回する。

「取り除ける不安要素は取り除いた方がいいだろ」

これも性質だろうか…特司は詳しく知らないが、特警は「不審人物を見つけ次第抹殺」する。
じぃぃと自分の顔を真正面から見つめてくるクラインに、ハインツはあっさり根負けした。

「わかった、3対1だな。約束した通り、場は用意する。4年の実技に参加した際に、練習試合として」
「やった!」

パッと表情が明るくなる。クラインは喜怒哀楽がはっきりと外に出るタイプだ。
指揮官としてはあまり望ましくはないが、違う魅力を備えている、とハインツは思う。
特司は、自分たち第二防衛だけでなく第一防衛とも行動を共にするのだから、もしかしたら、この奔放さも必要な素養なのか……

「だが本当に大丈夫なのか?」
「勝つ!ハインツは、俺が負けると思ってる?」
「特警の戦い方をほぼ習得したクラインが強いのは分かってる。でも、特警と攻撃官の強さは、一応は互角だ。それはクラインも知ってるだろう?」
「長期戦なら体力的に絶対俺たちが勝つけど」

クラインは未だに、自分を特警であるかのように話す。
編入する前に戻りたいとまだ思っているのだろうか…

「練習試合では制限時間がある。それに、力技とスピードだけでは対応しきれないのは分かっているだろう?」
「……あいつらは、『あいつ』程も強くない」

少し、声のトーンが落ちた。
自分の指摘が、痛いところを突いた、と思う。

編入翌日から連日、クラインは各学年から選出された攻撃官コースの候補生と練習試合を行った。

ハインツは、教師から手に入れた報告書でその詳細を知った。

1年、2年は相手にならなかった。スピードでクラインが凌駕し、一瞬で勝負がついた。

だが、3年からは少しだけ様相が変わる。特警が、その身体能力の高さで戦闘力を誇るのに対し、攻撃官はその戦闘技術で特警に匹敵する強さを備える。

相手の戦い方に、身体能力差をカバーする技術が加わったことで、クラインは戦い方を切り替えた。

スピードだけでなく、力の強さ、そして、勘。

相手の動きを読んでスピードと力でもって制圧する。

だが、やはり荒削りではあった。

攻撃官最終学年……第4学年の実技最優秀者との対戦では、磨き抜かれた戦闘技術の前に、敗退した───

「絶対、勝つ」

先程の落ちたトーンを振り払うように、はっきりとクラインが言葉を置いた。

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