「自分の顔、分かってるだろう?」
役割をうまく果たせるように教えてやる───
夢が途絶えて、はっと目を覚ます。
視界の端にクラインの顔が見えた。ベッドに頬杖をついて、自分の顔を覗き込んでいる。
「あ……、起きた」
「クライン……」
傍らの机のライトはついたままだ。壁の時計は1時半を少し過ぎた頃。
課題がまだ終わってないんだろうな。
「俺、魘されてた?」
起き上がる。クラインに「夢でうなされていたら問答無用でヤる!」と宣言されて以来、その宣言通りに、真夜中に突然始まることを既に何度も経験している。
寝ている最中に始まるわけだから、『判断』を促されているのも夢なのか現実なのかも曖昧なままで。
「いいや、顔見てただけ」
「……顔、」
さっきまで見ていた夢が蘇る。
「どうかした?」
─── 部隊に配属されたら、お前は「指揮官付き」になるだろうよ。
─── 綺麗な顔をしてる奴は大体そうなる。「指揮官付き」って知ってるか?要は「愛人」だ、「夜の業務」が必須になる。
「……こんな顔じゃなかったら良かったのに」
俯いて、膝に額を押し付ける。強く。
それに気付いたのか、横からクラインが額に手を添えて膝から離そうとする。
その手でリガンドの前髪を少しかき上げから、ゆっくり立ち上がり、リガンドの隣に腰を下ろして、頭を傾けこちらを覗き込んでくる。
「リガンドは自分の顔嫌い?」
「……こんな顔じゃなければ……あんな目に遭わなかっただろうから……嫌い、かな」
でも、自分の顔を嫌いと思ったところで、何も変わらない……
再び俯きかけたのをクラインの手が制止する。
「俺はリガンドの顔、好きだよ」
「…え」
「最初に見つけた時、リガンドを部屋まで連れて帰ってきたの、顔が好みだったからだし」
多分、きっと、思ったことをそのまま口にして、クラインがもう片方の手も伸ばしてくる。 両の掌で顔を挟んで、正面からじっと見て。
「俺は、好きだよ」
ゆっくり近づいてくるクラインの顔に、いつも通りに目を閉じて、迎え入れて。
体が重なってくるのを感じながら、頭の片隅で、クライン、課題は終わったの?とか、今夜は魘されてないんだけどやるの?とか、どうでもいいことばかりをぼんやり考えて、少し慣れてきた夜の交わりに、リガンドは体を委ねた。