第22話「顔」

「自分の顔、分かってるだろう?」 
役割をうまく果たせるように教えてやる─── 

  

夢が途絶えて、はっと目を覚ます。 
視界の端にクラインの顔が見えた。ベッドに頬杖をついて、自分の顔を覗き込んでいる。 

「あ……、起きた」 
「クライン……」 

傍らの机のライトはついたままだ。壁の時計は1時半を少し過ぎた頃。 
課題がまだ終わってないんだろうな。 

「俺、魘されてた?」 

起き上がる。クラインに「夢でうなされていたら問答無用でヤる!」と宣言されて以来、その宣言通りに、真夜中に突然始まることを既に何度も経験している。 
寝ている最中に始まるわけだから、『判断』を促されているのも夢なのか現実なのかも曖昧なままで。 

「いいや、顔見てただけ」 
「……顔、」 

さっきまで見ていた夢が蘇る。 

「どうかした?」 

 ─── 部隊に配属されたら、お前は「指揮官付き」になるだろうよ。 

─── 綺麗な顔をしてる奴は大体そうなる。「指揮官付き」って知ってるか?要は「愛人」だ、「夜の業務」が必須になる。 

 

「……こんな顔じゃなかったら良かったのに」 

俯いて、膝に額を押し付ける。強く。 
それに気付いたのか、横からクラインが額に手を添えて膝から離そうとする。 

その手でリガンドの前髪を少しかき上げから、ゆっくり立ち上がり、リガンドの隣に腰を下ろして、頭を傾けこちらを覗き込んでくる。 

「リガンドは自分の顔嫌い?」 
「……こんな顔じゃなければ……あんな目に遭わなかっただろうから……嫌い、かな」 

でも、自分の顔を嫌いと思ったところで、何も変わらない…… 
再び俯きかけたのをクラインの手が制止する。 

「俺はリガンドの顔、好きだよ」 
「…え」 

 「最初に見つけた時、リガンドを部屋まで連れて帰ってきたの、顔が好みだったからだし」 

 多分、きっと、思ったことをそのまま口にして、クラインがもう片方の手も伸ばしてくる。 両の掌で顔を挟んで、正面からじっと見て。 

「俺は、好きだよ」 

ゆっくり近づいてくるクラインの顔に、いつも通りに目を閉じて、迎え入れて。 

体が重なってくるのを感じながら、頭の片隅で、クライン、課題は終わったの?とか、今夜は魘されてないんだけどやるの?とか、どうでもいいことばかりをぼんやり考えて、少し慣れてきた夜の交わりに、リガンドは体を委ねた。

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