第26話「選別試験」 

その試験は、年度の終わりが近付く頃に順番に実施される。 

出席番号順に候補生たちは呼ばれ、自分の荷物をまとめて寮の自室をからっぽにし、事務員に荷物を預けてから試験場へと向かう。
合格すれば、出口で荷物と新しい出席番号を受取り、寮棟に戻って1学年上の階へ荷物を運ぶ。
最終学年の場合、それより上の階がないので、卒業式までの約一か月間、最上階の充分余った空き部屋……試験合格率が低いから……を割り振られる。 

上の学年ほど候補生の数は少なくなる。卒業率はわずか3%ほど。
試験を繰り返すうちに、ずっと向こうの部屋だった候補生が、隣の部屋になったりもする。 
不合格となった者は、そのまま士官学校を去るのか…… 

 誰もその姿を見ることは、ない。 

「リガンド、荷物まとめた?」
「うん」
クラスメイトと話しながら、試験場へと歩く。
荷物と言っても自分の場合、クラインの部屋に教科書も着替えも置いてしまっているから、申し訳ないほどに、貸与されている袋の中は隙間だらけだった。
もし、不合格だった場合、出口で荷物のことを事務員に伝えることになるのかな… 

昨晩、食事の際にその心配を口にすると、クラインとハインツに一蹴された。 

「合格するから問題ない」 

選別試験は、座学や実技とは異なる、本質の適正試験だ。
努力してどうにかなるようなものではない。 

2人に断言されても、まだ選別試験の経験がないリガンドは不安だったが、食後にクラインの部屋へと戻る廊下で、クラインに抱きしめられ、体中をぺたぺた触られ「大丈夫」と言われてその話題は「終了」となった。 

何が大丈夫なのか、さっぱりわからないんだけど。 

順番が来て、名前を呼ばれる。 
事務員に荷物を預け、入口に向かう。中に入ると、前が見えないほどに薄い布…ベールが幾重にも垂れ下がっている。 

背後でドアが閉ざされ、部屋の暗さに気付く。
目の前で静かにベールが薄く発光しているように見えた。 

何をどうしろとも指示は無く、奥に何かがある気がしてベールの隙間に潜り込む。
校訓だったか、正門の石碑に刻まれている一文を思い出した。 

「教えの裾に潜り込み、享受し、我ら本質を試さん」 

顔に触れるベールが少しくすぐったく思えて目を細める。 

何か別のものに触れ、掴んだと思った次の瞬間、リガンドの意識は絶えた。 

 

 

「特殊技能攻撃官コース第1学年 リガンド・グラン、正の選択、合格」 

事務的な声が聞こえて、ハッと目を開く。
「え…」
あたりを見渡すと見慣れた教育棟の廊下だった。
預けていた荷物と、新しい出席番号のカードを渡される。
前よりも100番以上繰り上がった番号の。 

事務員に促されて寮棟へと歩き出しながら、そっと、一度だけ振り返ってみた。 

不合格者の出口らしい場所は、やはり見当たらなかった。 

>>第27話へ

各話一覧へ戻る