防衛軍の士官クラスの多くは、士官学校サイマスから輩出されている。
的確で強力な攻撃を担う 「特殊技能攻撃官」。
攻撃官の攻撃力強化と指揮を担う 「指揮官」。
防衛軍の攻撃の監視と制御を担う 「制御官」。
いずれも、防衛軍がその機能を果たすために欠かせない存在だ。
「なんで……」
ぽかんと口を開けて、目を見開いて、クラインの言葉から力が抜けていくのが分かる。
何故って。
いつもは、参加した授業にかわいい女子がいたとか、散歩がてら入り込んだ倉庫の片隅で2人組がいちゃついていたとか、なんでもかんでも俺に話すのに。
学長室に呼ばれた時だけは、むかつく、ほんと無理、だけで具体的なことを全く話さないじゃないか……不自然だ。
「教師棟に出入りするようになって、違和感に気付いて調べたんだ」
───まだだ。まだ。
ハインツとしては、最初、教師の減少や校舎の縮小に多少の違和感を覚える程度ではあった。
教師棟に出入りするようになり、そこにある全ての資料の閲覧を特別に許可されても、それでも間接的に『それ』が窺い知れるだけで、教師も直接答えることは無く、ハインツは確信に至っていはいなかった。
「共有するのは俺だけでもいいかと思っていたんだが」
ゆっくりと腕を伸ばし、クラインの肩に手を置く。
「リガンドも巻き込む。……バディだろう?」
「……」
クラインの目の奥が揺れた。あと少しか。
「……ハインツは、初めて知った時、どう思った?」
「どっちのことだ?」
「どっちも」
軽く溜息をついてみせて、傍にあった椅子に座って、背にもたれ、天井を仰ぐ。
「試験に関しては、まぁ、世界に害を及ぼす性質を持つ者が秘密裏に『処理』されるのはある種、合理的だと思った」
腕を組み、瞼を閉じる。言葉をここで一度止める。待つ。
「……サイマスのこと、知ったときは?…ショックじゃなかった?」
「…クラインはどう思ったんだ?」
答えず、言葉を返す。
「俺の知ったこっちゃないって……そんなの。世界が終わるとか言われても、サイマス最後の希望だとか言われても、無理だ」
目を閉じていても、声が、少しずつ、俯いていくのがわかる。 最後の方は、ほとんど呻くような声になっていった。
ゆっくりと瞼を開いた。
やはり、終わるのか。この世界が。
少し薄暗い天井を見る。ショックを受けたかどうかと問われれば、受けたと思う。
だが、終焉が事実なら……
その瞬間まで、共に居たいと思う存在に出会えたというのも、事実だ。
椅子に預けていた重心を取り戻し、視線を天井からクラインへと移す。 机に腰掛け、俯いていたクラインとちょうど視線が合った。
ハインツは軽く、笑ってみせる。
「3人くらいがちょうどいいと思わないか?」