翌朝。
いつも通り、俺の空き時間にハインツが補習をして、ひと段落したときだった。
「……クライン、お前なんであんなことをリガンドの前で言ったんだ」
不貞腐れたような表情を浮かべて、ハインツが椅子の背にもたれる。
あんなこと。
昨晩のことだろうとアタリをつけて、惚ける。
「え?ダメだった?」
「ダメじゃないが……」
「だってさ、言わなきゃ伝わらないよ。リガンドに言っておいた方が、俺は二人にとっていいと思って」
ハインツの眉間にしわが寄る。顔が凛々しくできてるから、知らない奴が見たら怖そうに、不機嫌そうに見えるだろう。
でも、これは照れ隠しだ。
ハインツが表情を誤魔化すために、わざとしかめっ面をしてるやつ……
「一応、俺は指揮官候補生で、リガンドは攻撃官候補生だ。卒業すれば上官と下僚で……」
「カリョウ?」
「部下だ」
「リガンドのこと、部下って思ってない癖に。友達だろ?」
眉間を指し示して表情のセーブを解くように促す。
“指揮官たるもの、部下の信頼を損なうような言動は慎むべし。”
とはいえ、それは指揮官同士では必要の無いセーブだ。
「………俺の方が年上だ」
表情の緊張は解いてはくれたが、すぐに頬杖をついてそっぽを向いてしまった。
「それ言ったら俺もハインツより年上だけど?」
「…………」
「いいじゃん、友達で。そんな照れること?」
「………」
今度は沈黙してしまった。
ハインツは他に友達いなさそうだからな~こういう加減が下手だよな~と、椅子にもたれて天井を見上げる。
「俺もそっちがいいんだけどな~、羨ましい」
「……どういう意味だ」
「俺、ハインツとは友達がいい」
何度となく、ハインツに伝えてきたことだ。
そして何度も、却下されてきた。
「……俺は、クラインのことが好きだ」
「知ってる。でも、できれば俺もハインツと友達の方がいい。なんかさ、えーと、リガンドといるハインツの方がいいんだ、わかる?」
「言葉の意味は理解するが、承諾はしない」
「ちぇー……」
机に突っ伏す。
答はわかってた。駄目元でもう一度押してみただけだ。
それでも、ハインツとリガンドが二人で話しているのを見ると、羨ましくなる。
そういうのが……
違うな、そういうのも、欲しいのか。
自分と机との暗闇の中で、苦笑いする。
ハインツが腕を伸ばして、髪に触れてくる。
退けたりはしない。
触れられたら触れられるまま。
結局、スキンシップは嫌いじゃないんだよな。
だからといって、恋人関係になるつもりもなく。どちらかといえば友人関係の方が近いと思う、けど、何か違う、少なくともハインツは違うと言い張る。
「……友達がいい」
「断る」
そう言い張る友人だということにしておこう。勝手に。