第66話 再会

懐かしい声が聞こえた気がした。

思わず、右頭部の受信機に手をあてがう。
セントラルにいた頃の仲間に会いたいから、すべての回線の受信機能があるこの「紋章」をつけたいのかと、リガンドに聞かれたことを思い出した。

クラインは「運が良ければ会えるだろう」位にしか考えていなかったが、会えるなら会いたいと思う。
戦場は常に死と隣り合わせだ。
自分より何年も先に戦場へと出た仲間が、自分が士官学校を卒業して戦場に出るまで生きているとは限らない。
カールは同期の中では自分の次に強かった。だが、強ければ生き残れるかというとそうでもない。

受信した音声の発信元をたどる。
目を凝らすと、ずっと前方に黒い軍服のグループがたむろしていた。
期待するなよ、と自分に言い聞かせて近づく。

途中から何人かが気付いてこちらを見始めた。知らない顔ばかりだ、いや、見たことのある顔も……その一人がこちらに気づいて近寄ってくる。

「もしかして、クラインか?」
「えっと、……セントラルで一緒だった…」
声をかけてきた特警の名前はまったく覚えてない……言葉を濁してごまかす。
「そうそう!うわ、生きてたんだなお前!おーい!カール!クラインだ!」
その特警が呼んだ名前に興奮を覚える。その特警が呼びかけた方向から、4年分の歳をとってはいるが、こちらは自信をもってわかる見慣れた顔が現れた。
「クライン?!」
「カール!」
「「生きてたか!」」
言葉が重なって思わず笑い合う。士官学校で染みついた重苦しい色んなものが一瞬で吹き飛んでいくような気がした。
「どうよ、士官学校出て偉くなったか?」
「肩書だけはね、カールは?」
「お前がセントラルから出てったおかげで俺が同期ナンバー1だよ!」
袖の黒線が三本、チームリーダーだ。士官学校卒と違って、セントラル卒には形式的な上下関係がない。実力差でリーダーを決める。
「そっか」
「……お前、さらに強くなったな?」
「かもね」
カールも強くなっているのを読み取りながら少しとぼけてみせる。
「勉強嫌いのお前が士官学校でやってけるのか心配でさ~、キアがお前なら大丈夫って言ってたけど」
「キアは?」
カールが特に何も気にしない様子でその名を出したことで、少しだけ安心して尋ねる。
特警は危険分子の排除を担うということもあって、同胞の死をあまり悲観したりはしないから、油断はできないが。
「いるよ、さっきその辺で……」
カールが振り上げた腕の方角を見遣る……と、真逆の方向から明るい声が飛んできた。
「クライン?!!」
声が聞こえた方向を振り返ると、見慣れた顔……リガンドとキアは顔がすごく似ていると思っていたけど、久しぶりに見ると、本当によく似ている。
カールは4年分歳とったな~と思ったけど、こちらはそっくりな顔が4年の時を経るのをすぐそばで見てきたから、その通りすぎて唸りそうにもなる。
ま、こんな風に、頬を赤らめて目をキラキラさせて嬉しさいっぱい!といった表情は、リガンドはしないだろうけど。
近くまで駆け寄ってくると、キアは立ち止まって、慌ててぱたぱたと軍服を手で軽く叩いて埃を払ってから、少しもじもじし始める。
「やぁ、キア。久しぶり」
片腕を軽く広げて、どうぞ、と誘う。
セントラルにいた頃はしなかったことだ。だってまだ彼女は幼すぎたから。体型が。
「……逢いたかった」
それを見て、キアがうれしそうに笑って飛び込んできた。
視界の端で、カールがやれやれといった感じに肩をすくめて離れていく。
お前、キアのこと好きだろと胸中で溜息をつきながらも、クラインは手持ちのサーベルを片手で器用にベルトに引っ掛けて、満を持して両の腕で抱きとめ、やわらかさを堪能した。

……うん、ここはまったく似てないな。

 

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