第67話 同類

「ほんと、5年前はこう……ぺたーんこだったわけよ……それがこう、こんな…すごいいい感じになっててさぁ……」
駐屯地内にある休憩室で、いつものように二人で過ごしていると、クラインがキアに再会できたことを話し始めた。
「……どうコメントすればいいんだよ、俺は」
後ろから抱かれた体勢で、クラインに胸を撫でられながらリガンドは思わず半目になる。
自分とそっくりな顔の女性がいて、クラインと親しいというだけの話に、少しだけ動揺する自分をどうしていいのかわからない。
不意に軽々と抱きあげられて、向かい合う形に置かれじっと顔を眺められる。
「………」
「……何」
多少の不機嫌が読み取られてしまったことに、気まずさを覚えたが、知ってか知らずか……多分、知った上で……クラインはヘラっと笑う。
「顔は本当にそっくりなんだよ。二人を並べたい、最高の眺めだと思う!」
はぁ、と短くため息をついて不機嫌をごまかす。
「4年前は胸がぺたんこで色気がなかったけど、再会したら色気抜群の体型になってて楽しめたってことだろ、よかったな」
嫉妬しているわけではないけれど、と自分に胸中で言い訳しながら、少し離れようとクラインを腕で突いてはみたものの、かえってクラインに力をこめ直され、再びベッドに沈み込むはめになった。
「まぁね。不思議だよな、リガンドはぺたんこでも色気があるから」
「……」
見透かした顔で、こちらの髪を撫でてくる。

二回戦とばかりに、唇を重ねて舌を滑り込ませてきたクラインがふと、動きを止める。
「……今度は何?」
「いや、ちょっとヤなこと思い出して」
「ヤなこと?」
「………トラストに会った」
がばっと起き上がって、サイドテーブルからグラスを掴んで中身を飲み干す。
「トラストって……部屋にあった写真のトラスト・クヴァレ・ナイン?」
起き上がって、再び脱がされかけたシャツを直す……と、それを止めるようにクラインが再び絡みついてくる。
「よく覚えてるね、俺、あいつのフルネームなんか出てこなかったよ」
「そりゃ、クラインの名前の『元』だから……それで?何かあったの?」
「…逆セクハラ」
「は?」
むっつりと不機嫌を全面に出して、クラインは自分を抱きしめたまま、グラスと瓶に再び手を伸ばす。
「そんで、あいつの噂調べてみたけど、特司っていう立場で男だろうと女だろうとひっかけてるらしくてさぁ!」
「えぇと……」
それはクラインも同じじゃ……と思いながらも、気になったことを先に確認しておく。
「トラストって……女性?」
あの写真だけだとわからなかった…
「そ~!」
クラインが再び勢いよくグラスを干してから、こちらに口づけてくる。
「……んっ」
いつもより少し乱暴なやり方に噎せそうになる。
「…こういうこと、初対面で後輩にしてくる女、嫌じゃない?!しかも後ろから殴って!」
「……へ?…は?」
まったくイメージが追い付かない。
「どうしてそういうことになったんだよ……」
「知るかよ、突然現れて、まだまだだって言われて、これされたんだよ!」
逆セクハラに腹を立ててるというより、まだまだだと言われたことが悔しいんだろうなと思う。クラインはけっこう負けず嫌いだから。
そして、クラインが悔しいと思った……ということは、少なくとも現時点ではトラストの能力がクラインを上回っている、とクライン自身が認識したということだ。

どれくらい強いんだろう。
純粋に興味が湧いてくる……と、クラインが少しこちらを睨むように覗き込んできた。
「……次は何?」
「あいつ!絶対リガンドの顔好みだから。あいつがこの駐屯地きたら絶対隠れろよ、これ命令!」
「は?」
顔を両の掌で挟まれる。じっと目の奥まで睨まれている気がする。さっきの好奇心が見抜かれるような気がした。
「…そんな…ことは、さすがにないんじゃない?…いくらクラインとトラストの顔が似てるからって、その、好みまでは……」
「いいや、絶対にそうだ!俺にはわかる!あと、俺とあいつそんな顔似てないよ!」
「えぇ……」
同類だから?……同族嫌悪、だろうか。

命令だから、と本当に『声』を使って念押しされる。これ、発動したらどうなるんだろう、勝手に体が動いて物陰に隠れてしまう……?

「で、リガンドは調子どう?特警クラッシャーの噂聞いたよ」
こちらの妙な心配を知りもせず、クラインは気分屋らしくさっさと話題を変えて、面白がって尋ねてくる。
「あぁ……」
噂になってるんだ……と頭を抱えたくなる。
あの日、特警がニヤニヤしながら近付いてきて突然肩を抱いてきたから、クラインから教わっていた通りの反撃をしただけだったのに。
途中で避けられるから思い切りやっていいよ!って……でも、その特警は避けるのが遅くて完全にキマってしまったのだった。
「なんか、思ってたのと違う感じになった気はするけど……問題なく過ごせてる、大丈夫」
知らずに眉間にしわが寄っていたのだろう、クラインに指で眉間を軽く擦られて、少しくすぐったくて身じろぎする。
「クラインこそどうなの、なんか……ナンパしまくってるって噂聞いたけど」
「へへ~、やっぱりこの軍服って一防でモテるんだよ、特警に似てて間違われるし。で、二防で好みの子を見つけたときはこっちのエンブレム表に出してから声かければ大体いける!」
「…へ、へぇ……よかったね……」
満面の笑みでナンパの喜びを話してくるクラインに、 やっぱり似てるよ……と思いつつも、 リガンドは言葉にはせず、飲み込んでおいた。

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